もう何年か前の話になるんですが、乗るはずの飛行機の航空券を紛失したことがあります。それも、空港で搭乗手続き(チェックイン)を済ませた後のことです。通常、空港で飛行機に乗るまでの手続きは以下のような流れになります。
搭乗手続き(チェックイン) ⇒ 保安検査 ⇒ 搭乗ゲート
多くの場合、飛行機の出発時刻の1時間程前に空港に着いて、搭乗手続きを済ませるのですが、その時は空港に着くのが遅くなり出発の30分前にようやく着きました。急いでチェックインを済ませ、保安検査場に向かいました。その空港は1階にチェックインカウンターがあり、その後2階へと上がり保安検査場、搭乗ゲートへ進むのですが、事件はチェックインを済ませ保安検査場へと向かう、時間にして約1分程のあいだに起きました。
僕はチェックインを済ませた航空券を片手に持ったまま、1階から2階へ登るエスカレーターに乗ったのですが、中ほどまで登った時、何の因果か握っていたはずの航空券が指のあいだから下に落ちていきました。あっ、いけね!ところが指のあいだを滑り落ちていった航空券は、そのままエスカレーターの階段部分と手すりの壁のわずかな隙間に、狙い済ましたかのように見事にスッと消えてゆきました。点数をつければ10点満点の演技と言っても良いほどの見事な消え方でした。
しかし見事な演技の余韻に浸っている場合ではありません。出発まですでに20分あまりの段階で、航空券を失くしてしまったこの状態は明らかに僕にとっては大ピンチです。2階まで登ったところですぐさま折り返し、階段を1階まで駆け下りて先ほどのチェックインカウンターで事情を話しました。
するとそれまでにこやかだったお姉さんの顔が突如ひきつり、手首をがっちり掴まれ奥の事務所に連れ込まれました。んー、軽く犯罪者の気分。隅の机に座らされ、矢継ぎ早に何枚もの書類にサインをさせられ、上司の決済をもらってこなければいけないのでそこで待っていろと命じられ、待つこと30分。すでに出発時刻は過ぎています。まもなく書類を抱えて戻ってきたお姉さんは、さあ行きますよと僕を引っ立て(?)保安検査場を抜け、搭乗ゲートを顔パスし、出発を待たせてあった飛行機の中まで送ってくれました。機内に入ると他の乗客からの刺すような冷たい視線で迎えられ無事に予定の飛行機に乗ることができました。
そんなわけで、結局のところ予定の飛行機に乗ることができてチャンチャン♪という話なのですが、あとになって思ったのは、あの時飛行機を待たせてまでも僕を乗せたのは、航空会社側の事情というのもあったのかなと。あの時の血相変えたお姉さんの表情もそうだし、航空券を失くしたのは本来僕の責任なのですから、乗せられませんとか、後の便になりますでも良かったんじゃないかと思います。(いえ、もちろん僕はその便に乗せてもらえて感謝しているのですが。) それでもなお、出発を遅らせてまで乗せてくれたのは何か事情があるのかなと。考えられるのは、チェックイン後だったからということ。チェックインした乗客を乗せずに出発してしまうことは、多少出発を遅らせる以上にあちらにとってはまずいことなんじゃないかと思ったわけです。それがどう『まずい』のか僕にはまるでわかりませんが。
いずれにしても、出発30分も遅らせてすみません。